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実習指導のポイント

前頁に挙げた実習指導の現状や問題の解決になると思われることを筆者なりの経験や反省から話してみたいと思います。また実習指導支援ツールや実習指導支援パッケージはこれら問題の解決につながるツールであります。本項を読んだ方では「実習指導支援パッケージについて」「実習指導支援ツールの紹介」が未読な方はぜひ一読ください。

 

 

 実習の際には、学生に対して知識や技術の未熟さ、社会経験の少なさ、ぎこちなさへの不満を抱いたことはありませんか?

 また、「技術の習得」「評価を完成させられるようになる」といった実習の一部に固執し、ひたすらレポート内容の修正を繰り返したり指導者のやり方をただ模倣させることになっていませんか?

 

 このような状況に指導者が陥る理由はあるでしょうが(後述)、まずは実習の目的について再認識してみましょう。作業療法協会の出している「臨床実習の手引き」より、実習の目的を抜粋しました。

 

「臨床実習の意義は、作業療法士養成施設(以下、養成校)で学習した知識と技術・技能および態度を、臨床実習施設での作業療法体験を通して統合することである。」
 「臨床実習の目的は、実習生が臨床実習指導者の指導のもとに、対象者の全体像を把握、作業療法計画、治療・指導・援助などを通して、作業療法士としての知識と技術・技能および態度を身につけ、保健・医療・福祉にかかわる専門職としての認識を高めることである(作業療法 臨床実習の手引きより)。」

 

 以上のように、もともと学生に実習で何を学んでもらうかは決まっているので指導者はこれらの目的や意義が達成できるよう学生に必要な関わりや指導を行います。また学生は自身が学校で学んだことがどう治療につながるか、どうして治療につながるのか、また治療の意味などを実際の治療場面で体験し理解していく必要があります。指導者は学生個々の個性を理解しながら学生が学校で習ったことと臨床を結べるよう必要な支援することが役割です。

 

 もし上記のようにうまく実習が進まない場合、指導者側からもきちんと原因を考えていく必要があります。後述もしますが実習は主に学生と指導者の2者関係が中心になります。ゆえに起こる問題は指導者側にあることもあるということを覚えておきましょう。

 

 

 

ポイント1:実習の進行や順序を考えよう

 今現在筆者は業務都合により実習担当の機会がありません(T0T)ので、ここに記載するのはあくまで思い出した内容や、今の視点でできた方が良いことを時系列的に表現しています。

 

※バイザー会議:準備期1

・実習開始前にやっておいてほしい課題を学生に伝える

・実習に対して学生に自身の希望や不安なことを確認する

・どのような実習にしたいか、学生にどのような実習であってほしいかを伝える

※ここで、見学実習であれば「実習指導支援パッケージ」を、評価実習や臨床実習であれば「実習指導支援ツール」を予め渡して、実習地と指導者への予習を行ってもらうような使い方が出来ます。

                      

※実習開始前:準備期2

・担当ケースの決定と自身の作業療法評価の再確認(学生に伝えれる状態かどうか)

・担当ケースの記録関連の確認

・学生が学校で習っている理論について、バイザー自身が理解できているか確認する

・学生に出している課題をバイザー自分が表現できるよう、またその根拠やベースとなる理論も含めて口述できる程度にはまとめておく。

 

①実習開始時:学生の人物像の理解と指導者としての学生への関わり方や指導の仕方を考える時期

・治療場面も含めた実習場面すべてでの学生の様子、指導場面や課題への指導の反映のさせ方などから、学生が周囲からどのような影響を受けているか、周囲がどのような影響を与えているかを考察する。そのうえで学生の人物像を考察する。

・学生が課題に書こうとしていることやこちらに伝えたいことをくみ取る姿勢を忘れない。

・学生が困っていることなど実際に確認し、指導者自身の学生の人物像の考察も含めて関わり方や指導内容など検討していく。学生にも指導者側が感じている学生の人物像について少しずつ確認していき、絶えず修正していく(理解や出来る範囲の受容をしていく)

 

②中間評価時:学生と今後どう実習を進めるか再考する時期

・指導者の学生への評価とその理由を伝える。日頃の学生の振る舞い、患者さんとの関わり方、スタッフとの関係、提出物の内容などからバイザーなりに学生の現状をどう感じているかを具体的に伝える。

・バイザーの学生への評価(解釈)についてどう感じたのか確認する。また学生なりに自身の実習の現状の理由や原因について確認する。←この場合学生の善し悪しを問うのではなく、何が大変だったか、何が気になってしまったのか、何がしんどかったか、何がわからなかったのかなど、学生の実情をバイザーが理解する姿勢を持つこと。

・学生自身の人物像や能力によるところはもちろん、学生が話した自身の実情も念頭に置きながら学生の人物像に対してバイザーの関わり方や指導内容が妥当であったか考える。

・そのうえで今後の実習や指導内容、バイザーの関わり方を考え、学生に確認の上実行する。

・今後の実習進行について、学生なりに乗り越えたいことや向き合いたいことなど目標を考えてもらう。またバイザー側からも学生に期待したいことや向き合ってほしいことなど学生への課題を伝える。

・指導者側も自身の陥っていたことを受け止め、自身の目標や注意すべきことを自覚する(これについては指導者自身の中に留めておいてよい)

・これらについて教官訪問時に教官に伝え、判断を仰ぐ。

 

③実習後半:学生の目標や課題について、学生なりにきちんと向き合えているか観察する。またサブケースとの両立も考えなければならない時期なので、学生の実習の達成度からメインケースに対しては指導や課題を出すタイミングや順序、量など、妥当な領域を見極める。レポートに対しても表現の仕方やレポートとしての体裁などは指導者なりに提案や修正をしていき、学生への負担を減らすことも考慮する。

あと、学生の負荷量についてはバイザー側の主観だけではなく学生からも確認すること。実際に課題過多となっているのか、学生が余計なところに時間を費やしているのかバイザーが遅くまで残しすぎているのか、他も含めて原因を調べ、適切に対処する。

 

④終了時:自身の実習の進め方の振り返りや課題整理の時期

・バイザー自身の振り返りだけでなく、学生自身からも意見や感想をもらう。

 

 

 この流れが妥当かは諸先生方に判断をゆだねますが、筆者なりにも何度かの実習担当経験のなかで精査し、周囲の実習の様子からより良い形を考えた結果です。この流れをうまく実現するために筆者が行ってきたことをこれから述べます。

 

 

ポイント2:実習指導で学生に学んでほしいことは何か、はっきりしておこう

 実習は学年ごとに必要な段階を踏んで「作業療法とは」ということを考え、療法士として何をしていくかを理解していく機会であります。そしてもともと作業、障害、リハビリテーションにはしっかりとした定義や意義がありますので指導者はそれらを学年ごとに学んできた範囲に合わせて現場でのセラピストと患者さんとの関わりを通じて理解していけるよう指導します。

 そのうえで非常に重要なのが、前述の作業、障害、リハビリテーションといった、作業療法の根幹的な考えかたを理解しているか?ということです。これがなければ実習で見せたいことや伝えたいことがないということになります。そういった状態で実習を行った場合、学生さんは作業療法らしい動きを行うことが出来ず、患者さんのやりたいことをお手伝いすることに努めたり、助手さんの如くスタッフのフォローに徹するなど表面的な動きばかりになったり、患者さんとうまく関係が取れなかったりするのではないでしょうか?

 

 先に「学生に学んでほしいことは何か、はっきりしておこう」とタイトルを付けましたが、これはつまり、指導者が作業療法士として学生に伝え見せるものを自身がはっきり出来るということであり、語れるだけでなくそれを基に動け、また少しの説明で学生が「なるほど」「そういうことか」と納得できるということを示せるようになるということです。そのうえで、学生の学年ごとにどういった見せ方をすれば、フィードバックで「なるほど」と思え理解できるかを考えます。

 そのためには、受け持つ学生の学年に応じて、きちんと「作業」を「療法」として用いていることを理解出来るような説明や講義、見学を適切なカリキュラムとして構成することが重要かと考えます。よく見学実習でも「作業療法を見たことがないから」などと言ってプログラムの見学のフルコースを組むSVが居ますが、実際にSV自身の動きを学生が見て、その後のフィードバックで説明されて、そんなんで学生がそれらを自力で繋げて「なるほど」と思えるのか?と疑問に思うような実習もありました。またフィードバックがSVの自己満足や自身を正当化するようなフィードバックにならないよう自戒しなければなりません。まぁ、もともとSV自身がきちんと「語る」ことができ、また「見せる」ことができれば問題はありません。

 

 筆者がみている限りでは、どの学年においても「作業」ということはどういうことかといったことかは、教科書の内容は覚えていても、何を意味するかは分かっていません。安易な見学コースをするくらいなら、作業とはどういうことかの説明を早期に行うことをお勧めします。

 

※そのためにも「実習指導支援パッケージ」作成を行い妥当な内容が用意出来れば、指導者自身の動きや考えをはっきり出来、学生に対しても共有が可能となります。

 

 

 

ポイント3:学生と指導者の作業療法に関する考え方や基本をすり合わせておこう

 作業療法、作業、障害、リハビリテーション、それぞれに定義や意義があり、作業療法士の根本・共通言語として存在しています。しかし、同じ現場内でも人によってこれらの解釈にはいくらか違いがあります。解釈やとらえ方の違いが生じるのは単に知識だけでなくそれぞれの経験や価値観によって違いが生じてくるのではないかと思います。しかし差はあれど患者さんとの関係の中で教わったり気付かされて確立されていくことなのは大差ないのではないかと思っています

 しかし学生はこれらを体験することは(おそらく)初めてであり理解は乏しいでしょう。だから疾患や症状、機能障害に固執してしまったり指導者の望むことに目を向けにくいのでしょう。

 しかし指導者自身こういったことを意識できなければ、学生に必要な体験やそれを表現するための適切な課題を出すことはできず、的外れな指導や課題を繰り返す可能性もあります。

 

そこで筆者は、実習指導者会議(バイザー会議)や実習前の学生からの確認連絡の際に…

「リハビリテーションとは?」「障害とは?」「作業療法とは?」

の3つについて、学生自身が思っていることや解釈していることを、一切何も参考にせず、自身の言葉のみで書いて欲しいと課題を出すようにしています。

 

これにより学生と指導者側の意識や方向性の違いがある程度がはっきりできますし、ここから学生にどうなって欲しいのかを最初からはっきりすることができます。

 

ただ、課題を出してもらうからには指導者側が学生に理解できるように伝えれる状態であるのは言うまでもありません。

 

※ここでも「実習指導支援パッケージ」「実習指導支援ツール」のように、具体的に学生に指導者の考えを示せる方法を用いることが出来れば、学生と指導者双方に相手へのすり合わせや歩み寄りが可能となると思います。

 

 

 

ポイント4:誰のための指導なのかを再認識しよう

 こう書くと「学生のため」「患者さんのため」「指導者のため」といった答えが返ってくるでしょう。しかし、レポートやデイリーの書き方などに念入りに訂正を入れたり指導場面でバイザー側が納得できる反応や理解を示すことをに躍起になり、指導時間が長くなったことはないでしょうか?つまり指導者寄りになっているのではないかということです。

 

 学生がバイザーの指導内容を自身のレポートやデイリーにうまく反映できない理由は、学生自身の能力の問題はあるでしょう。しかし、必要以上に学生に指導(修正)を繰り返していないでしょうか?ひょっとすると指導者の指導をうまく活かせない学生に対して「どうしてわかってくれないんだ!」と焦燥感や指導者自身に対して不全感を抱いたりはしていないでしょうか?

 

このようなネガティブな理由は稀でしょうが(ほんとは稀ではないと思ってます)、どのような理由があろうとも、指導の量や内容、方法を決めているのは指導者自身が判断し選んでいるのは確かでしょう

 

 指導内容や課題が多くなるのは学生に気付いてほしいことや頑張って乗り越えてほしいことがあるのは確かだと思います。しかしそれ以上に指導者自身が過去に自身が受けた指導やその後の自身の経験で「学生はこうあるべき」「これ位の指導は受けて当然」といった指導者自身の価値観を押し付けてしまっていませんか

 

  また、自身の指導内容(=自身の作業療法の理論であったり評価)への不安や自身の指導にうまく応えれない学生に対して、課題やチェック、指導量で補おうとしていませんか?更には指導者自身指導時間を確保するのに苦労したり、指導者なりに考えて指導している状況であれば、指導者としてもその苦労が報われて欲しくなったり学生に「応えて」欲しくなるのではないでしょうか?このように指導者が自身の不全感が高まる状況(自身の個人因子に業務時間や学生という環境因子が影響することで生じる不全感ということですかね)に陥ると、学生への求めが強まり、結果として指導者中心の指導がエスカレートするのではないでしょうか?(指導の悪循環)

 

 本来実習指導が通常業務や指導者の生活に支障をきたすべきではないと思いますし、可能であれば使える時間内に必要な指導内容と量を選ぶことができるのが理想でしょうが難しいでしょう。しかし、現状陥っていることに目を向けず、自身の都合や感情を正当化してしまうことは、プロフェッショナルとしては避けたいところです。

 

 どちらにしても、学生との関係で生じる問題の原因は指導者自身にもありますが、起こってしまうことそのものに対しては指導者自身を否定的にとらえず、素直に自身の気持ちと向き合い自身が学生にどのような気持ちや思いで向き合っているのか、そのうえでどうして現状のような事態になっているのか考えてみましょう。そうすれば道は開けるはずです。

 

 

 

ポイント5:学生が理解できる指導の仕方やペースを選べているか?

 ③の一部とリンクしますが、学生が結果としてなかなかバイザーの指導内容を理解できない時に、どうして理解しづらいのかを指導者側の原因で考えたことはありますか?

 

 学生は現場での作業療法の実践をほぼ行ったことのない状態なので、指導者側の視点やペースでの指導では、理解が難しくても当然かもしれません。

 

 よって、指導の際には学生が理解しやすい言葉や表現の仕方、量、指導内容の順番など、学生自身に合わせて行っていく必要があります。

 

 そのためには学生のレベルでの作業療法の理解度を指導者自身が把握する必要があります(その一助が②で挙げたことになります)。それが上手くできていない場合に起きるであろう良くないであろう状態が「遅くまで学生を残す」であり「学生が深夜まで(または徹夜で)レポートを書いている」です。前者については学生が指導内容を理解できなければ指導者も焦ったり意地になり遅くまで残すことになりやすいでしょう。また遅くまで残せば学生の帰宅時間は遅れ、課題に取り掛かる時間そのものがずれ込むため、入眠時刻も遅くなります。そうして学生は慢性的な睡眠不足に陥ります。そうなれば実習中の居眠りや課題の仕上がり不足に繋がり、さらに指導者や実習地の学生への風当たりが強くなります。原因は学生・・・と思うことはできますが、指導者が適切な指導内容や関わり方を選べ、課題の量や程度を決定できればこうなることはある程度抑えることができるかもしれません。

 

 また学生は社会経験が乏しく他者との接し方や振る舞い方への自信のなさまた自身が絶えず査定されているといった不安感を抱いていることもあって、指導者に自分の言葉を出すことさえ不安かもしれません。そこで指導者は学生の記載内容や話す内容から学生が本当に伝えたかったことを汲みとったり解釈し、確認する必要があり、指導や助言はそのうえで行います。指導や助言も指導者なりの視点や根拠を話しながら指導者なりの考えや意見を「示す」姿勢が大切です(強要ではない)。

 

 よく指導者の意見や考えを単にそのままなぞらせたりまるごと修正してしまうことはあると思いますが、それでは学生は「自分は間違っている」「自分はここまでされなければならない」と受け取る可能性があります。指導者側もそのつもりでないならそうならないよう注意が必要でしょう。

 

 

 

 

ポイント6:上司や先輩に勇気をもって質問しよう=質問や支援を求めにくい理由を考えよう

 指導者となった方は業務との両立や学生の成長や経験に貢献しようと、差はあれど「頑張って」いると思います。しかし、自身の指導者…というより作業療法士としての能力以上に頑張ることはできません。自身のキャパシティを超えて自身のみで対応していけば、業務、同僚だけでなく担当患者さん、学生にも不利益やリスクが生じます。専門職であり指導者であることの責任を重視して、きちんと先輩や上司、周りに相談していきましょう!

 

 …と言ってみましたが、実際はかなり危ない状態にならないと相談することは少ないのででしょう。指導者になりたての時は自分に自信や肯定感が乏しく、失敗を避けたがる可能性があります。そのため自分の至らないところや力不足(と自身で思ってしまう所)を他者に悟られるのではと恐れ、自身で抱え込んでしまうのではと思います。また中堅やベテランは、周りに対してプライドもある為より周囲の評価を意識し、やはり抱え込みがちになってしまうかもしれません。

 

 そこで、相談することが自身の価値を下げることではなく、勇気と責任をもった行動であり自身の価値や評価を上げる行為であると理解して、もしくは実習がこじれるよりはマシと思って遠慮なく相談すべきだと思います。先輩作業療法士は自らが先輩であっても意見や相談をする姿勢を示すことで、新人指導者も安心できるのではないでしょうか?

 

 あと、新人指導者を支える先輩や上司にあたる方は経験自体は豊富ですが、それゆえ自身の経験や価値観での理論中心になってしまう可能性もあり、後輩や新人が頼りづらい、解りにくいといったことに繋がるかもしれません。また困って聞いても現状の指導状況や指導者自身のしんどさ、不安をうまく汲んでもらえるかと感じてしまうかもしれません。先輩や上司にあたる方は、後輩や新人が安心して頼れると思えるようにうまく配慮出来ればと思います。逆に、説明できないようでは、その現場のレベルもそこまでということになりかねません。